思い出に残る講演会はいくつもあるが
この青森県十和田市の講演は特別な意味で忘れられない講演、第1位だろう。

まず全国各地に毎月平均2~3回講演に呼ばれている。
初めて呼ばれたのが28歳の時だから、
もうかれこれ40年以上やっていることになる。
初めの頃は造形で、途中から作家として呼ばれるようになった。

なのにである。

それだけ全国に呼ばれているのに
十和田湖に一度も行ったことがなかったのである。
「近くにある“奥入瀬渓流”も是非観てください。」
と青森の人から何度も言われ、ついにその時が来たのである。

ところが着いた途端、悪天候。
波は荒れ狂い、
木はなり振りかまわず踊りまくり、
湖は大荒れ状態。
あんなに荒れ狂った湖を初めて見たのです。

まさに“あらしのよるに”ならぬ
“あらしの湖”でした。

その日は予定変更して現代美術館に。
草間彌生の作品で記念撮影。

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そしてまた翌日も天候の回復した十和田湖へ。
結局同じ道を4回も通ることに。

実は特別な意味とは、その2日目の朝に始まったのだ。

朝、家から電話が
「今、破水した。」
という。

時間が朝の8時だから平均12時間~13時間かかると聞いていたので
出産は夜の8時頃だ。
羽田に飛行機が着くのが8時頃だから
ギリギリ間に合わないかも。
立ち会うと言っていたのにどうしよう。

一つ前の便にすると
講演中になってしまうし、
飛行機を捨てて新幹線にしても大して変わらない。
あとは羽田から急いで病院に向かうしかない。

そんな思いで十和田湖の智恵子像を観て、
神社で安産のお守りを買い、
奥入瀬で記念写真を撮り、
講演を無事終わらせ、羽田に着くと
病院に急いだ。

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病院に着いたのは夜の9時30分頃。
13時間は過ぎている。
もう 生まれているかも知れない。

駆けつけたナースステーションで
「分娩室はどこですか?」
と聞くと、急いで案内しようとした看護師が
「あ、間違えました。まだ部屋にいますよ。」
とにっこり。

結局生まれたのはそれから6時間後。
しっかり立ち会えて無事出産。

こんな忘れられない講演は、人生の中でそんなにないと思う。

それにしても十和田で食べた、
全国B級グルメ大会で優勝したというバラ焼きは美味だった。 

きむらゆういち